2021年8月11日に発表したこのシングル「High」はもともと私が所属していたバンドFUTONの曲をモモコモーションとキルツがセルフカヴァーした曲です。元の曲は「Love Bites」というアルバムに収録されています。
ちなみにFUTONはこんなバンドです。このホームページにも載せているのでみてみてくださいね。
この曲ができたのは、バンドを結成してから1年目くらいだったかと思います。このバンドは最初、クラブで一緒にDJをしていたBeeくんとDavidのアイデアで作られたのですが、夜遊びのシーンに似合うような、その頃ロンドンでも流行りかけていたエレクトロクラッシュ風のパンクとEDMを合わせたような曲をいくつか録音したり、ライブで演奏し始めていました。トラックはダンス音楽のプロデュースの経験も豊富なDavidが作って、歌詞を含めた曲の世界観のアイデアなんかはBeeくんが出していたんです。アンダーグラウンドな怪しさもあったし、ロック的な激しさもあり、それがとても珍しくてカッコ良くて、バンコクの大学生なんかが一生懸命ラジオでリクエストしてくれたりして、インディーズシーンで少しづつ知られるようになっていました。
私もそんな雰囲気に合わせて、それはもう楽しんで、キテレツ?wというかパンク風とも不思議風とも何ともいえない変てこで派手で時にはエロい?ような衣装を身につけたりして楽しんでたんです。他のアーティストのようにニッコリ笑顔で、とかアンニュイで涼しげな雰囲気でパフォーマンスするというより、ちょっと観客を睨むくらいの気合いでやっていました(笑)
実は私もこのバンドを始める前から自分で曲を書いたり、ひとりでMTRで録音などしてはいたのですが、それを形にして発表などしたことがなかったし、自信もなかったんです。だけどDavidはそんなことは気にもせず「なんか曲できたら持ってきて!オレがそれを元にトラックを作るから!」と言ってくれたので、まずは、当時Davidがトラック作りに使っていたReasonというシーケンサーの使い方を教えてもらうことに。それからは、みよう見まねで自分が考えた曲のような、音のようなものをを打ち込んでみて、聞いてもらうようになりました。Davidは時々専門学校などで音楽を教えたりする先生もやっていたくらいなので、私のボロボロのトラックの出来を見て「ガハハハ〜、何じゃコレ!こんな変なトラック見たことないわ!」と思いっきりバカにして笑いつつも(いつもDavidは私をからかって遊んでいましたw)、私がもっと一人でいろんなことができるようにと上手いこと促してくれていたんでしょうね。
この曲「High」もそんな感じでDividのスタジオに持っていった聞かせたところから始まりました。私が作ったのはイントロと1番のような2番の途中までで、そのあとどうやってまとめていいのか分からなかったし、私が録音した歌も歌い出しのところと、サビのHigh〜♪っという部分くらいしか決まっていなかったのですが、Davidはこの未完成のトラックを聴いてすぐに「コレはめちゃめちゃいい曲だ」と言って制作が始まりました。DavidはすぐにBeeくんに電話をかけて「Momoが超いい曲持ってきたから歌詞書いて」といって呼び出し、Beeくんは1日ですぐに歌詞を完成してしまいました。Davidもトラックの構成はその時にだいたいは決めてしまいました。今思えば、BeeくんもDavidもめちゃめちゃ仕事が早かったです。あれこれ悩まずすぐにやって終わらせてしまうので、いろいろ考えつつノロノロと作る私の性格には、スピード感がありすぎてついていけないくらいでした。
そうして私が作った穴だらけのトラックと言葉の足りていない歌詞が完成し、Davidがいろんな音を加えて完成度の上がったモノになり、歌を録音しようということになりました。いつものように、バンドで歌を担当していた私とGeneのユニゾンで歌うということになったのです。その頃はほとんどの曲をほぼ一緒にユニゾンで歌ってたんです。
最初にBeeくんが作った歌詞は、今回わたしがセルフカヴァーした英語歌詞で、何度かライブで演奏したりしました。ところが、その頃にちょうどタイの「a day」という雑誌の企画で付録としてつけるコンピレーションアルバムを作るので、何かオリジナル曲を作って欲しいと依頼されたと記憶してい流のですが、確かその時のお題がタイ語の曲を作って欲しいというものだったと思います。FUTONはメンバー全員がバンコク在住のバンドではあったけれど、歌っていた曲は全て英語歌詞だったんですね。だからFUTONがタイ語で歌っている曲があっても面白いんじゃない?という雑誌側の企画意図があったんだと思います。
それなら、わざわざオリジナルを作るよりも、最近できたばかりのこの新曲をタイ語にしてみようということになり、Geneが訳詞をすることに。Geneはタイ人だけど、イギリスのロックやアメリカのポップスなどのいわゆる洋楽好きな子で、タイ語で歌うバンドなんてダサいからイヤだ、というタイプだったんですが、どうせ雑誌の企画だし、遊び感覚でやってみるかということになりました。
ところがGeneはけっこう文才もあるんですね。バンドをする前もタイの外国人向けの「Metro」という情報誌の編集部でアシスタントをしていたこともあるし、その他にも、たまに音楽雑誌にレビュー記事を書いたりもしていたんです。だからタイ語の歌を嫌っていた割には書く才能もあるGeneはきれいに英語の意味や音感を残しつつも、タイ語の歌としても響くような歌詞を作り上げてくれました。
しかし、コレは誰にでもできることじゃないみたいです。メロディーがあらかじめ決まっている英語の歌詞をタイ語に直すことはかなりむずかしいテクニックのようです。というのも、そもそもタイ語にはもともと音程がついているため、私もはじめてこの時知ったのですが、タイ人でも曲の歌詞を作ることそのものが難しいそうです。タイ語は同じ音程を変えることによって全く意味が違ってくることばなんですが、日本語でも確かに同じようなことばはありますよね。例えば「箸」と「橋」は平仮名で書くと同じですが、発音する時は音の高さを「はし⤵︎」とか「はし⤴︎」という風に変えて区別していますよね。タイ語にはそういうことばがたくさんあります。しかも面倒なことに、それらが文章となり、メロディーになった時も、ちゃんとその高低が合っていないといけないそうなのです!そうでなければ聴いた人は「なんか気持ちが悪い」「意味がわからない」と感じるようなのです。日本語の歌なら、♪キミを愛してる〜⤴︎と歌おうが、♪キミを愛してる〜⤵︎と歌おうが、もしくは高低を付けず、同じ音程で♪キミを愛してるー→と棒歌いしても通じてしまうのですが、タイ語では普段話している高低とメロディーが合っていなければ、先ほども書いた通り「なんか気持ちわるい」「意味分かんない」になるそうなのです。なるほど、だからタイ語のポップスはみんな同じようなフレーズと似たようなメロディーが多いのか!とその時はじめて納得しました。
しかし、さすがはGeneくん、そんなありきたりの言葉は選びません。私とBeeくんの作った歌詞の意味も雰囲気も壊さず、クリシェにはならないけれどロマンティックな言葉を丁寧に選び、かつタイ語的に意味が通じるようなメロディーにはめたのですから、お見事という感じでした。
↑アルバム「Love BItes」のCDにもタイ語文字が。
そんな風に作られたこの曲は、雑誌a dayの付録CDはもちろん、ラジオでもかけられるとすぐにタイ人の子達の間で話題になりました。それまでのFUTONはちょっと近寄りがたい、バキバキのEDMビートでギリギリ下品で悪そうな歌詞を歌い、不良外人とつるんでる夜遊び人みたいなイメージだったと思うのですが(笑)、この曲はもっとタイ人がそもそも大好きなエモさやセンチメンタルさもあり、またゆったりした曲調ということもあり(タイ人はこの曲のようにBPM90くらいの速さが大好きなようです。タイのヒット曲はだいたいコレですね。コレについてはまたいつか書きたいと思います)、この曲のおかげでFUTONは以前にもまして、もっと広い層の若者に受け入れられたように感じました。後にYouTube動画でこの曲をカヴァーしてくれたタイ人の男の子までいるようです。さらにその後、この「High」という曲は野宮真貴さんと菊地成孔さんがデュエットで日本語カヴァーしてくれることになったのですが、この時の思い出に関しては、また今度詳しく書きたいと思います。
そうやって「High」は、バンドの新しい一面を開拓してくれたような曲となったのですが、とはいえ、これもやっぱりあのFUTONの曲。実はちょっと悪いコのイメージももちろんたっぷり含まれています。作った時は意識していなかったのですが、私とBeeくんがイメージしていたのはベルベットアンダーグラウンド&ニコのSunday Morningだったのかな?と思います。曲の歌い出しも♪I like Sunday morning〜(日曜の朝が好き)で始まります。作っている時は分からなかったのですが、今思えば、日曜の朝というのはそれだけで退廃的なイメージがあるから、そんな気分の曲にしたかったのかもしれないですね。キリスト教徒の多い欧米では、日曜の朝といえば教会でお祈りをする時間。それが善いこととされていますが、そんな敬虔で清くあるべき時間に(笑)部屋でギターを抱え、まどろみながら、恋人との惚れた腫れたやら、いけない遊びやら、いろんなことをモヤモヤ考えながら、煩悩にふけっている・・・というのはけしからん!というかんじがします(笑)私が作ったのは1番の歌いだしだけだったのですが、Beeくんは2番を♪I like Monday morning〜と始めることでストーリーの展開を作ってくれたんですね。その気持ちの変化を見事に表現していると思います。月曜といえば、楽しかったお休みも終わり、気持ちを切り替えて仕事を始める日ですね。何かと決別しなければいけない、だけど憂鬱、そんな主人公の気分さえ伝わってきます。Beeくんもとても文才がありますね。名コピーライターであり、詩人だなあと思います。
話は戻りますが、そうやって出来たタイ語バージョンの「High」はあまりにも出来がよく、評判も良かったため、それ以後は元の英語歌詞で歌うことはなくなり、アルバム曲として発表されたものも、タイ語バージョンしかありません。私にとってはこの英語歌詞もとても思い出が深く、そして素晴らしい歌詞なので、ぜひいろんな人に聴いてもらいたいと思い、今回セルフカヴァーとして発表することにしたという訳です。
私のセルフカヴァーバージョンの「High」はYoutubeの動画はもちろん、Apple Music、Spotify、Line Music、YouTube Musicなどなど、いろんなデジタルプラットフォームにて配信発売中です。ぜひ聴いてみてください。
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